東京高等裁判所 昭和56年(行コ)31号 判決 1982年7月28日
控訴人 株式会社中央設備商会
被控訴人 淀橋税務署長
代理人 細井淳久 佐々木正男 ほか三名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた判決
一 控訴の趣旨
1 原判決を左のとおり変更する。
2 控訴人の昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日まで、同四八年四月一日から同四九年三月三一日まで及び同四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの三事業年度分の各法人税について、被控訴人が同五一年五月二八日付でした各再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張及び証拠
原判決事実摘示及び当審証拠目録記載のとおりである。
理由
一 当審判決の理由は、左記二、三の外は、原判決の理由一ないし五と同一であるからこれを引用する。当審における控訴人代表者の供述も、この判断を左右するに足らない。
二 原判決三二丁裏八行目から四〇丁裏一一行目まで(別紙計算書全部を含む。)を次のとおり改める。(なお、三丁表六行目「51」は「48」の誤記である。)
「(二) 次に、前記3の(三)に掲げた番号の支出は、控訴人代表者名内茂一人による飲食代金である。そこで、右の支出の趣旨ないし目的について検討するに、これを法人税法三五条の役員賞与に該当すると解する余地もないではないが、右飲食の日時、機会、内容、場所等前記判示の諸事情を総合して考えると、右支出は、3の(一)(二)に掲げた番号の支出とその趣旨を同じくするものであり、従つて、交際費等であると解すべきであつて、役員賞与又は福利厚生費であると解すべきではない。(なお、措置法六二条(改正前は六三条)四項の交際費等に該当する支出の相手方として、当該法人の従業員も含まれることは先に判示したとおりであるが、右の従業員の中には代表者を含む役員も含むものと解すべきである。)
四 右認定に基づき、係争三事業年度における原告の所得金額を算出すると、左のとおりである。
1 昭和四八年三月期
(一) 申告所得金額
申告所得金額が五五〇万九九八円であることは当事者間に争いがない。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額の加算
申告交際費額が五二一万四八八一円であることは当事者間に争いがない。更に、当期の支出であることに争いのない別表の番号<略>の支払金額の合計八五万一九四〇円は、福利厚生費ではなく交際費等と認められる支出である。したがつて、交際費等の額は六〇六万六八二一円となる。右交際費等の額並びに<証拠略>によつて認められる資本金額、資本積立金額、基準交際費額及び申告交際費額中の損金不算入額を基礎にして、昭和四八年法律第一六号による改正前の措置法六三条に基づいて計算すると、交際費等の損金算入限度超過額は、別紙計算書1のとおり、申告に係る損金不算入額の外に更に八五万一九四〇円あると認められ、この分を申告所得に加算すべきである。
(三) そうすると、昭和四八年三月期の所得金額は右(一)及び(二)を合算した六三六万一九三八円であると認められ、この金額を所得金額とする当期分の本件再更正処分に所得過大認定の違法はない。
2 昭和四九年三月期
(一) 申告所得金額
申告所得金額が四七八万六一一九円であることは当事者間に争いがない。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額の加算
申告交際費額が七五五万六八九五円であることは当事者間に争いがない。更に、当期の支出であることに争いのない別表の番号<略>の支払金額の合計一〇四万九〇四〇円は、福利厚生費ではなく交際費等と認められる支出である。したがつて、交際費等の額は八六〇万五九三五円となる。右交際費等の額並びに<証拠略>によつて認められる資本金額、資本積立金額、基準交際費額及び申告交際費額中の損金不算入額を基磯にして、昭和四九年法律第一七号による改正前の措置法六二条に基づいて計算すると、交際費等の損金算入限度超過額は、別紙計算書2のとおり、申告に係る損金不算入額の外に更に八二万五四〇六円あると認められ、この分を申告所得に加算すべきである。
(三) 未納事業税認容額の減算
昭和四八年三月期についての本件再更正処分により増額する所得金額八五万一九四〇円に対応する事業税相当額一〇万二一二〇円(昭和四九年法律第一九号による改正前の地方税法七二条の二二第一項二号、二〇条の四の二第一項。申告所得金額が既に三〇〇万円を超えているので税率は一二パーセントとなる。)を当期の損金として申告所得から減算すべきである。
(四) そうすると、昭和四九年三月期の所得金額は右(一)及び(二)の合算額から右(三)を減算した五五〇万九四〇五円であると認められ、この金額を所得金額とする当期分の本件再更正処分に所得過大認定の違法はない。
3 昭和五〇年三月期
(一) 申告所得金額
申告所得金額が三九六万八二九七円であることは当事者間に争いがない。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額の加算
申告交際費額が五五六万三三三一円であることは当事者間に争いがない。更に、当期の支出であることに争いのない別表の<3>欄の番号<略>の支払金額の合計三三九万一〇五〇円は、福利厚生費ではなく交際費等と認められる支出である。したがつて、交際費等の額は八九五万四三八一円となる。右交際費等の額並びに<証拠略>によつて認められる資本金額、資本積立金額、基準交際費額及び申告交際費額中の損金不算入額を基礎にして、昭和五〇年法律第一六号による改正前の措置法六二条に基づいて計算すると、交際費等の損金算入限度超過額は、別紙計算書3のとおり、三七〇万〇七八五円であると認められ、申告に係る損金不算入額が〇円であるから、右超過額の全額を申告所得に加算すべきである。
(三) 未納事業税認容額の減算
昭和四九年三月期についての本件再更生処分により増額する所得金額七二万三二八六円に対応する事業税相当額八万六七六〇円(税率は昭和四九年三月期と同じ。)を当期の損金として申告所得から減算すべきである。
(四) そうすると、昭和五〇年三月期の所得金額は右(一)及び(二)の合算額から右(三)を減算した七五八万二三二二円であると認められ、この金額を所得金額とする当期分の本件再更正処分に所得過大認定の違法はない。
五 次に、原告主張のその余の違法事由について判断する。
1 請求原因二2の違法事由(附記理由不備)について
本件通知書に本件再更正の理由として原告主張のとおり附記されていることは、当事者間に争いがない。これによれば、右附記理由においては、原告が福利厚生費として経理処理した支出の中から、交際費等に該当すると認めたものを支払年月日、支払先及び支払金額によつて具体的に特定して抽出し、それが一部の役員及び従業員の社外のバー及び小料理店における飲酒代であることから福利厚生費ではなく交際費等に該当すると判断したものであることが明らかにされている。
このように、交際費等に該当するとされた支出が、支払年月日、支払先及び支払金額によつて特定されている限り、これによつて処分庁の判断根拠の骨子は明らかにされているのであるから、本件附記理由は処分庁の判断の慎重及び合理性を担保するとともに相手方に不服申立ての便宜を付与するという理由附記制度の目的に反することはない。したがつて、それ以上に、右一部の役員及び従業員の氏名、飲食日、飲食内容等についての詳細や、更には交際費等に関する法律解釈についての処分庁の見解等が記載されていなくても、不備はないというべきである。」
三 以上に判示したとおり、本件各処分に違法の点はなく、従つて本件請求はいずれも失当である。原判決の理由は、一部において当裁判所の理由と同一ではなく、結論においても一部相違するが、附帯控訴がなされていないので、本件控訴を棄却するにとどめる。
訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条八九条適用。
(裁判官 田中永司 武藤春光 安部剛)
別紙計算書1(昭和48年3月期)
<A> 支出交際費額=6,066,821
<B> 基準交際費額=4,387,284(乙第11号証の3の「10」「11」欄による。)
<C> 資本金額=12,000,000(乙第8号証の1による。)
<D> 資本積立金額=0(〃)
<E> 申告交際費額のうちの損金不算入額=1,011,886(乙第11号証の3の「22」欄による。)
<F> 損金算入限度額={4,000,000+(<C>+<D>)×25/1000}×12/12=4,030,000
<G> 限度超過額=<A>-<F>=2,036,821
<H> 損金算入限度超過額=(<A>-<B>×105/100)+{<G>-(<A>-<B>×105/100)}×70/100=1,863,826(昭和48年法律第16号による改正前の措置法63条1項2号適用)
<I> 加算分=<H>-<E>=851,940
別紙計算書2(昭和49年3月期)
<A> 支出交際費額=8,605,935
<B> 基準交際費額=6,066,821(別紙計算書1の<A>欄による。)
<C> 資本金額=20,000,000(乙第8号証の2による。)
<D> 資本積立金額=0(〃)
<E> 申告交際費額のうちの損金不算入額=3,150,488(乙第12号証の3の「22」欄による。)
<F> 損金算入限度額={4,000,000+(<C>+<D>)×25/1000}×12/12=4,050,000
<G> 限度超過額=<A>-<F>=4,555,935
<H> 損金算入限度超過額=(<A>-<B>×105/100)+{<G>-(<A>-<B>×105/100)}×75/100=3,975,894(昭和49年法律第17号による改正前の措置法62条1項2号適用)
<I> 加算分=<H>-<E>=825,406
別紙計算書3(昭和50年3月期)
<A> 支出交際費額=8,954,381
<B> 基準交際費額=8,605,935(別紙計算書2の<A>欄による。)
<C> 資本金額=20,000,000(乙第8号証の3による。)
<D> 資本積立金額=0(〃)
<E> 申告交際費額のうちの損金不算入額=0(乙第13号証の3の「16」「22」「25」欄による。)
<F> 損金算入限度額={4,000,000+(<C>+<D>×1/1000}×12/12=4,020,000
<G> 限度超過額=<A>-<F>=4,934,381
<H> 損金算入限度超過額=<G>×75/100=3,700,785(昭和50年法律第16号による改正前の措置法62条1項1号適用)
<I> 加算分=<H>-<E>=3,700,785
【参考】第一審判決(東京地裁 昭和五二年(行ウ)第三二一号 昭和五六年四月一五日判決)
主文
一 原告の昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度の法人税について、被告が同五一年五月二八日付でした再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、所得金額七五一万五四四四円を超える部分を取り消す。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた判決
一 原告
1 原告の昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日まで、同四八年四月一日から同四九年三月三一日まで及び同四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの三事業年度分の各法人税について、被告が同五一年五月二八日付でした各再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二原告の請求原因
一 原告は、圧縮空気除湿除油装置、空気油水冷却装置、消音マフラー、消音装置及び工場廃水の油水分離装置等の機械器具の製造販売並びにこれら設置機械の整備工事を業とする青色申告法人であるが、その昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日までの事業年度(以下「昭和四八年三月期」という。)、昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度(以下「昭和四九年三月期」という。)及び昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五〇年三月期」という。)の法人税の課税経過は左表のとおりである(単位は円)。
1 昭和四八年三月期
区分
年月日
(昭和)
所得金額
法人税額
過少申告加算税額
確定申告
51・5・22
五、五〇九、九九八
一、四七八、九〇〇
―
当初更正
51・3・31
六、三六一、九三八
一、七八五、七〇〇
一五、三〇〇
審査請求
51・5・12
五、五〇九、九九八
一、四七八、九〇〇
―
減額更正
(当初更正分)
51・5・24
五、五〇九、九九八
一、四七八、九〇〇
〇
再更正
51・5・28
六、三六一、九三八
一、七八五、七〇〇
一五、三〇〇
審査裁決
(当初更正分)
51・6・9
却下
審査請求
(再更正分)
51・7・27
五、五〇九、九九八
一、四七八、九〇〇
―
同裁決
52・7・25
棄却
2 昭和四九年三月期
区分
年月日
(昭和)
所得金額
法人税額
過少申告加算税額
確定申告
49・5・30
四、七八六、一一九
一、三三五、〇〇〇
―
当初更正
51・3・31
五、五〇九、四〇五
一、六〇〇、七〇〇
一三、二〇〇
審査請求
51・5・12
四、七八六、一一九
一、三三五、〇〇〇
―
減額更正
(当初更正分)
51・5・24
四、七八六、一一九
一、三三五、〇〇〇
〇
再更正
51・5・28
五、五〇九、四〇五
一、六〇〇、七〇〇
一三、二〇〇
審査裁決
(当初更正分)
51・6・9
却下
審査請求
(再更正分)
51・7・27
四、七八六、一一九
一、三三五、〇〇〇
―
同裁決
52・7・25
棄却
3 昭和五〇年三月期
区分
年月日
(昭和)
所得金額
法人税額
過少申告加算税額
確定申告
50・5・30
三、九六八、二九七
八九三、一〇〇
―
当初更正
51・3・31
七、五八二、三二二
二、〇九四、八〇〇
六〇、〇〇〇
審査請求
51・5・12
三、九六八、二九七
八九三、一〇〇
―
減額更正
(当初更正分)
51・5・24
三、九六八、二九七
八九三、一〇〇
〇
再更正
51・5・28
七、五八二、三二二
二、〇九四、八〇〇
六〇、〇〇〇
審査裁決
(当初更正分)
51・6・9
却下
審査請求
(再更正分)
51・7・27
三、九六八、二九七
八九三、一〇〇
―
同裁決
52・7・25
棄却
二 しかし、昭和五一年五月二八日付で行われた右各再更正処分(以下「本件再更正処分」という。)及びこれに伴う各過少申告加算税賦課決定処分(以下、まとめて「本件処分」という。)は左のとおり違法であり取り消されるべきである。
1 所得の過大認定による違法
本件処分は、原告が福利厚生費として損金経理して確定申告したもののうち、昭和四八年三月期分について八五万一九四〇円、同四九年三月期分について一〇四万九〇四〇円及び同五〇年三月期分について三三九万一〇五〇円(以下「係争支出額」という。)を租税特別措置法(以下「措置法」という。)六二条の交際費等と認定し、これを基礎にして交際費等の損金算入限度超過額を計算することにより所得を過大に認定した違法がある。
2 理由附記不備による違法
(一) 本件処分に係る各更正通知書(以下「本件通知書」という。)には、本件再更正処分の理由として、「貴社が厚生費として損金経理した……………円のうち、一部の役員および従業員が社外のバーおよび小料理店で飲酒した行為につき支出したものは別紙の日付、摘要ならびに金額で示すとおり合計………円であります。これ等の支出額は、租税特別措置法六二条四項の括弧書で示される通常要する費用に該当しないので、厚生費でなく交際費等になります。したがつて、この金額を申告額に加算して、損金算入限度超過額を計算すると、………円が損金不算入となります。」と記載され、その「別紙」には支払年月日、支払先及び支払金額が例えば「昭和四七年四月一〇日、鳥秀、一八、七〇〇円」というように摘示されている。しかし、<1>本件通知書には、支出原因たる飲酒をした日が記載されていないうえ、係争支出額がすべて飲酒代だけなのか、その他の代金も含むのか、その飲酒が社外で行われたものに限定されるのかどうかが明らかにされていない。<2>また、本件通知書では、飲酒した者を個別的に明らかにせずに「一部の役員および従業員」としており、支出行為者の特定が不十分である。しかも、係争支出額を全体としてみたときに一部の役員と従業員の飲酒によるという趣旨か、飲酒日毎に常に一部の役員と従業員とが飲酒をしているという趣旨かわからないし、また、「一部」に対する全体の内容も定かでない。<3>更に、本件通知書によると、支出目的の認定が不十分であり、係争支出額が何故福利厚生費でなく交際費等に該当するかが判然としない。何をもつて措置法六二条四項括弧書の「通常要する費用」というのか、係争支出額が何故右の「通常要する費用」に当たらないのかは何もわからないのである。飲酒を伴えば当然に右の「通常要する費用」でないということはできないのであり、「もつぱら従業員の慰安のため」という同項括弧書の文言からいえば、酒類の提供はむしろ通常というべきであろう。このように、本件通知書によると、係争支出額が交際費等に該当する根拠が不明確である。
元来、法人税法一三〇条二項が、青色申告法人の法人税の更正をする場合に理由附記を要求しているのは、処分庁の判断の慎重及び合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという趣旨に出たものであるところ、措置法六二条四項の交際費等の解釈については種々の見解の対立があり、これと福利厚生費や広告宣伝費等との相違点を明らかにすることは容易ではないのであるから、交際費等に関して更正をする場合には、処分理由として、結論に到達した経緯事実の認定及び法律の解釈を明示する必要があるというべきである。ところが、本件通知書の理由附記は、前述のとおりこの点で極めて不備であり、法人税法一三〇条二項に違反するものである。
(二) 右のほか、昭和四八年三月期分についての本件再更正処分の理由附記には次のとおり固有の瑕疵がある。すなわち、昭和四八年三月期分に係る本件通知書によると、附記理由の本文中には、交際費等とすべき支出が「別紙の日付、摘要ならびに金額で示すとおり合計三三九万一〇五〇円あります。」と記載されているのに、右の「別紙」には「計八五万一九四〇円」とあつて、到底、統一した意味内容として理解することはできず、全体が意味不明の理由不備という外ない。
3 法的安定性を損うことによる違法
原告は、係争支出額と同性質の支出について従前からこれを福利厚生費として処理し、被告も右処理を是認してきたものである。本件処分は、突如としてこれを交際費等と認定したもので、行政行為として一貫性に欠け、税務執行面における法的安定性を著しく損うものとして違法である。
4 動機の不正による違法
本件処分に先行する昭和五〇年一二月三日の税務調査の際に、調査にきた被告所部係官は、原告の担当者に対し、女性問題に関して弁護士に謝礼を渡さなければならないのでお金を入れる封筒を欲しいなどと述べて、暗に金員を要求するが如き態度をとつたが、原告は封筒を渡しただけでこれを黙殺したという経過があつた。本件処分はこれに対する意趣返しと解する外なく、不正の動機によるものとして違法である。
第三請求原因に対する被告の認否
一 請求原因一は認める。
二 同二の冒頭は争う。
三 同二の1のうち、所得金額を過大に認定した違法があるとの主張は争い、その余は認める。
四 同二の2(一)のうち、本件通知書に原告主張の附記理由が記載されていることは認め、その余の主張は争う。
五 同二の2(二)のうち、昭和四八年三月期分について交際費等とすべき支出額が本件通知書の附記理由本文と「別紙」とで原告指摘のとおり相違することは認め、その余の主張は争う。
六 同二の3のうち、係争事業年度前の原告の福利厚生費勘定中に係争支出額と同性質の支出があつたことは認めるが、被告が従前の原告の会計処理を是認しながら係争事業年度分について突如として交際費等と認定したことは否認し、その余の主張は争う。本件処分は係争事業年度前の事業年度とは全く関係のない処分であるから、原告の主張は失当である。
七 同二の4は否認する。
第四被告の主張
一 本件処分には、左のとおり、所得過大認定の違法はない。
1 昭和四八年三月期
(一) 申告所得金額 五五〇万九九九八円
原告の確定申告における所得金額である。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額加算分 八五万一九四〇円
原告が福利厚生費として申告した支出の中には、一部の役員及び従業員による社外のバーや小料理店における飲食代金八五万一九四〇円(その支払年月日、支払先、支払金額、請求年月日、飲食年月日、飲食金額、支出の対象者の内訳明細は別表一の番号<略>のとおりである。)が含まれているところ、後記二のとおり、右支出額は措置法六三条(昭和四八年法律第一六号による改正前のもの)の「交際費等」に該当するものである。したがつて、交際費等の損金算入限度超過額は、申告交際費額五二一万四八八一円に右飲食代金を加算した金額を基礎として同条一項二号に基づき計算すべきであり、これによれば、原告が確定申告に際し損金不算入とした額の外に、更に八五万一九四〇円が損金不算入とされるべきである。よつて、所得金額の算出に際してはこの分を加算すべきである。
(三) 当期の所得金額は右(一)(二)を合算した六三六万一九三八円である。
2 昭和四九年三月期
(一) 申告所得金額 四七八万六一一九円
原告の確定申告における所得金額である。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額加算分 八二万五四〇六円
昭和四八年三月期と同様に、当期申告の福利厚生費中にも交際費等と認定すべき飲食代金一〇四万九〇四〇円(その内訳明細は別表二の番号<略>のとおりである。)が含まれているから、申告交際費額七五五万六八九五円にこれを加算した金額を基礎にして措置法六二条一項二号(昭和四九年法律第一七号による改正前のもの)に基づき計算すると、更に八二万五四〇六円が損金不算入とされるべきである。
(三) 未納事業税認容額減算分 一〇万二一二〇円
昭和四八年三月期についての本件再更正処分により増額する所得金額八五万一九四〇円に対応する事業税相当額(一〇〇〇円未満を切り捨てた後の右金額の一二パーセント相当額)であり、当期の損金と認めるべきものである。
(四) 当期の所得金額は右(一)(二)の合算額から右(三)を減算した五五〇万九四〇五円である。
3 昭和五〇年三月期
(一) 申告所得金額 三九六万八二九七円
原告の確定申告における所得金額である。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額加算分 三七〇万〇七八五円
昭和四八年三月期及び同四九年三月期と同様に、当期申告の福利厚生費中にも交際費等と認定すべき飲食代金三三九万一〇五〇円(その内訳明細は別表三の番号<略>のとおりである。)が含まれているから、申告交際費額五五六万三三三一円にこれを加算した金額を基礎にして措置法六二条一項(昭和五〇年法律第一六号による改正前のもの)に基づき計算すると、三七〇万〇七八五円が損金不算入とされるべきである。
(三) 未納事業税認容額減算分 八万六七六〇円
昭和四九年三月期についての本件再更正処分により増額する所得金額七二万三二八六円に対応する事業税相当額(計算方法は昭和四九年三月期分と同じ。)であり、当期の損金と認めるべきものである。
(四) 当期の所得金額は右(一)(二)の合算額から右(三)を減算した七五八万二三二二円である。
4 本件処分は、右1ないし3の金額を係争三事業年度における原告の所得金額としてなされたものであり、所得過大認定の違法はない。
二 係争支出額は左のとおり交際費等に該当するものである。
1 措置法六二条四項(昭和四八年法律第一六号による改正前の措置法では六三条四項)によれば、法人の支出が交際費等に該当する要件は、第一に、支出の相手方が事業に関係のある者であること、第二に、支出の目的が接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のためであること、以上の二点である。まず、「事業に関係のある者」とは、得意先、仕入先等に限られるものではなく、当該支出法人の役員及び従業員等も含まれると解するべきである。このことは、右条項がいわゆる交際費、接待費のような対外的費用だけに限定せずに「機密費その他の費用」と定めていることや、同条項括弧書が、従業員等も「事業に関係のある者等」に含まれることを当然の前提として、従業員に対する支出のうち特定のものだけを交際費等から除外していることに照らし、明らかである。次に、「接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」であるか否かは、支出の名義の何たるかを問わず、支出の動機、金額、態様、効果等具体的な事情を総合的に判断して実質的見地から決定するべきである。当該支出が交際費等に該当するかどうかは、右のような二要件に該当する支出であるか否かによつて決定されることであつて、それが業務遂行に不可欠であるか否か、慣行化されたものであるか否か、定額的なものであるか否かを問わないと解するべきである。けだし、措置法六二条の規定は、本来事業経費であつて損金に含まれるべきはずの交際費等のうちの一定額を超えるものを、法人の冗費、濫費の抑制及び資本蓄積等の政策目的から特別に損金不算入とする例外を定めたものだからである。
ところで、措置法六二条四項括弧書の「もつぱら従業員の慰安のために行なわれる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」も、事業に関係のある者に含まれる役員及び従業員の慰安のために支出されるものであるから形式的には交際費等に該当するものであるが、実質的には福利厚生費的性質を有するので、特に交際費等から除外されるのである。福利厚生費とは、従業員の全体が、各人の労働の質、量、能率に対応せずに、当該企業に所属する従業員集団の一員として享受する給付、換言すれば、従業員であれば誰でも同じ給付を受けられると期待し得るような原則で運営される給付を対象とする支出であり、各人への帰属部分を金額的に特定できないものである。したがつて、「もつぱら従業員の慰安のために行われる」行事は従業員の全体が参加することを予定されたものであることを要し、かつ、交際費等から除外される費用は、社会常識上一般に福利厚生の範囲と認められる内容及び程度の給付のために必要な限度のものでなければならない。
2 本件の係争支出額である別表一ないし三の番号<略>(以下、単に「別表の番号………」と略称する。)の各支出は、いずれも原告の全従業員を対象としたものではなく、一部の役員及び従業員のみが役員又は現場責任者の裁量的判断で飲食した代金であり、その飲食の場所は社外のバー、料亭及び小料理店等であり、その飲食の内容も酒類を主体とするものである。このような支出の内容、程度からみて、社会通念上従業員に対する福利厚生の範囲内のものとは認められない。
そうすると、係争支出額は、1に述べた交際費等に該当し、これから除外される福利厚生費には当たらない、というべきである。
三 本件再更正処分の理由附記に不備はない。
1 本件通知書は、原告が福利厚生費として損金経理して申告した支出のうち交際費等と認めるべきものについて、「別表」をもつて支払年月日、支払先及び支払金額を個別に摘示し、かつ、支出対象者も「一部の役員および従業員」と明示したうえ、それらが福利厚生費ではなく交際費等に該当する根拠を十分記載している。右の「一部の役員および従業員」の氏名を支出日毎に特定して記載してはいないが、前記二1から明らかなとおり、交際費等であるか否かは、支出先、支出内容、支出金額等や、支出目的たる行為が従業員全体の参加を予定していないものかどうかによつて判定することもできるのであり、これらの点について本件通知書程度の記載があれば、支出対象者たる役員と従業員の氏名が特定されなくても、それが交際費等であることが容易に判明する。
したがつて、理由附記に不備はない。
2 もつとも、昭和四八年三月期分の本件通知書においては、その附記理由の本文の金額と「別紙」の金額とが相違していることは、原告指摘のとおりである。しかし、右本文と「別紙」の金額を対照すれば、右相違は「別紙」の金額を本文に移記する際に誤つたものであり、また、交際費等と認定すべき金額は「別紙」に示された八五万一九四〇円であるというのが処分庁の真意であることがたやすくわかるのである。このように、単なる記載誤り等による瑕疵があつても、処分庁の真意は容易に確定し得るから、右瑕疵は取消原因には当たらないというべきである。
第五被告の主張に対する原告の認否及び反論
一 被告の主張一の1ないし3の各(一)の申告所得金額は認める。
二 同一の1ないし3の各(二)のうち、原告が福利厚生費として申告した支出の中に別表の番号<略>の飲食代金が含まれていること、その支払年月日、支払先、支払金額、請求年月日、飲食年月日、飲食金額が別表の<1>ないし<6>欄のとおりであること、申告交際費額が、昭和四八年三月期五二一万四八八一円、同四九年三月期七五五万六八九五円、同五〇年三月期五五六万三三三一円であることは認める。別表<7>欄の支出の対象者のうち、別表の番号<略>の支出の対象者が別表の<7>欄のとおりであるか又はこれとほぼ同一(人数又は氏名が一名違う程度)であることは認めるが、その余の番号の支出の対象者については不知。その余の主張の趣旨は争う。なお、乙第六号証の一ないし一五一、乙第七号証は、原告が国税不服審判所長に対し審査請求に際して提出したものであり、被告主張の本件処分の適法性を立証するための証拠からは排除されるべきである。
三 同一の2及び3の各(三)の未納事業税認容額並びに4は争う。
四 同二、三は争う。
五 係争支出額は左のとおり福利厚生費に該当するものである。
1 措置法六二条四項の規定によれば、交際費等とは、そもそも取引先を相手方とする費用をいうのであり、右条項の「その他事業に関係のある者等」が当該法人の役員や従業員を含むと解するべきではなく、右条項括弧書の趣旨も、当該費用が元来交際費等に該当しないことを注意的に定めたものにすぎない。したがつて、役員や従業員を対象とした係争支出額が交際費等に該当する余地はないのである。
2 更に、原告は産業用機械器具の製造販売及び整備を業とする従業員三〇名程度の法人であり、その得意先は大手の自動車会社が大部分である。そこで、得意先の機械が作動していない時間に注文機械の設置又は整備清掃をせざるを得ず、原告の作業は、代表者を含む全社員が何か所かの取引先に分かれ、土曜日の夕刻から深夜にかけて行うものとなり、また、日曜日に行われることも多く、場合によつては徹夜して月曜の明け方に至ることもある。ウイークデーの場合も夜間作業が常態である。しかも、体中油だらけとなるので、作業終了後に一旦会社へ戻つて着替えねばならず、時間的にみて終電車等に間に合わなくなるのが通例である。したがつて、従業員に対し夜間に補食させることが不可欠となるが、原告には社内食堂がないために社外の飲食店を利用せざるを得ないのである。以上のような原告の業務の特殊性に照らすと、社内に取り寄せた食事代及び作業グループ毎に従業員が機会を分けて社外で食事を主体とする飲食をした代金たる係争支出額が福利厚生費に該当することは明らかである。
また、右のように業務形態に特殊性があるため、原告には従業員慰安のための旅行や宴会を開催するゆとりもなかつた。係争の飲食行為は、慰安旅行、宴会、福利厚生施設に代わるという性格を有し、かつ、慣行化されていたものであるから、その意味からも、係争支出額は福利厚生費というべきである。
3 また、交際費等課税の本旨は、冗費、濫費の抑制にあるところ、係争支出額は、前述のとおり、特殊な形態による従業員の現実の労働を慰労し、次の労働の意欲を促すためのものであるから、単なる慰安のための費用よりはるかに直接的な必要経費であり、いわんや冗費、濫費の評価を受けるべき筋合のものではない。したがつて、係争支出額は、この点からも、交際費等に該当しないのである。
4 被告は、飲食した者が一部の役員及び従業員に限られ裁量的判断で飲食が行われていること、飲食の場所が社外のバー等であること、飲食の内容が酒類を主体とするものであることを主張の根拠としているが、密度の高い深夜作業で従業員の労苦が多かつたときは、作業に従事した者全員に対して慰労の呼びかけを行つており、役員は従業員に対するねぎらいと仕事の打合せの必要から同席していたのである。飲食の場所としては、原告に社内食堂がないためたまたま深夜営業をしている小規模なバー等を利用したのにすぎず、また、従業員の肉体的疲労と精神的緊張をほぐして慰労するためには酒類を伴うことがあるのは当然であつて、酒類の提供があればすべて交際費等になるとするのは社会常識に反する。
5 以上のとおり、係争支出額は福利厚生費であつて交際費等ではないのであるが、仮に、そのうちの飲酒代が福利厚生費でないとされるとしても、少なくとも料理類の代金についてはこれを福利厚生費と認めるべきである。そこで、別表の番号1ないし427の各支出についてその内訳をみると、純然たる補食としての社内への料理の取寄せが一二万四二一〇円あり、また、内訳が明確なものは四一万六六二〇円で、うち料理代が二六万一三二〇円で六三パーセント、飲酒代が一五万五三〇〇円で三七パーセントである。内訳の明確でないものは合計四五三万九〇六五円であるが、右内訳の明確なものに準じて少なくともその六〇パーセントを料理代とみると、右四五三万九〇六五円のうち少なくとも二七二万三四三九円は料理代の支出であつたといえる。したがつて、仮に飲酒代は福利厚生費と認められないとしても、右二七二万三四三九円と内訳の明確な二六万一三二〇円及び一二万四二一〇円の合計三一〇万八九六九円は福利厚生費として認められなければならない。
第六証拠 <略>
理由
一 請求原因一の課税経過に関する事実は当事者間に争いがない。
そこで、本件再更正処分が所得を過大に認定したものであるか否かについて判断する。
二 原告が福利厚生費として申告した支出の中に別表の番号<略>の飲食代金が含まれていること、その支払年月日、支払先、支払金額、請求年月日、飲食年月日、飲食金額が別表の<1>ないし<6>欄のとおりであること、被告が右飲食代金の支出を交際費等に当たるとして本件再更正処分をしたものであることについては、当事者間に争いがない。
ところで、措置法六二条四項(昭和四八年法律第一六号による改正前の措置法では六三条四項)は、「第一項及び第二項に規定する交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(もつぱら従業員の慰安のために行なわれる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く。)をいう。」と規定している。そして、右条項括弧書は、当該法人の従業員も「事業に関係ある者等」に含まれることを前提として、従業員に対する支出のうち特に一定のものだけを交際費等から除外しているものであるから、交際費等に該当する支出の相手方としては、当該法人の従業員も含まれるというべきであり、これを原告主張のように取引先、仕入先等の外部の者に限定すべきではない。また、交際費等が当該法人にとつては必要な事業経費であり得るにもかかわらず一定限度を超える額の損金算入を否認している趣旨が、社会的冗費の抑制にあることを考えると、右条項括弧書において「もつぱら従業員の慰安のために行なわれる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」を特に交際費等から除外しているのは、この種の費用が、従業員個々人の業務実績とは無関係に従業員全体の福利厚生のために支出されるものであり、法人において負担するのが相当な費用であるので、通常要する範囲を超えない限り全額損金算入を認めても、法人の社会的冗費抑制の目的に反しないとしたためであると解される。したがつて、法人が業務に関連して従業員の飲食代を支出した場合でも、その飲食が右の運動会、演芸会、旅行等と同じように従業員の慰安のために相当なものとして通常一般的とされる範囲内のものであるときは、交際費等に該当しないが、右の限度を超えたときは、たとえそれが事業遂行に必要であるとか慣行化されているとかの事情があつても、交際費等から除外されるものではないというべきである。
三 そこで、右の見地に立つて、係争支出額の内容及びその性質を検討する。
1 まず、原告が圧縮空気除湿除油装置、空気油水冷却装置及び工場廃水の油水分離装置等の機械器具の製造販売並びにこれら設置機械の整備工事を業とする株式会社であることは当事者間に争いがなく、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第一四号証及び第一五号証、証人伊賀山正勝及び同樋山恵介の各証言並びに原告代表者尋問の結果によれば、本件係争事業年度当時、原告には社員二〇名前後、アルバイト一〇名前後が働いていたが、主たる取引先である大手の自動車会社等に対する前記機械類の販売、取付、整備等の作業は取引先の操業時間外である夜間や土曜日の午後及び日曜日に時間に追われて行わざるを得ないことが多く、そのため、作業内容はかなりきつく、また、作業の終了時間が深夜になることも少なくなかつたこと、原告においては、従前から、原告代表者名内茂又は幹部社員が作業の終了後に夜間他の社員やアルバイトの者を誘つて原告の費用負担により飲食させることがあつたが、名内茂が独身で酒好きであることも手伝つてその回数は月数回から十数回になり、大抵は名内茂も飲食に加わつていたこと、そのほか、名内茂が一人で飲食し、その費用を原告が負担した場合もあること、これらの飲食は、社外の飲食店から食物を取り寄せて会社内で行われたこともあるが、ほとんどは後述する社外の飲食店において行われたものであること、本件の係争支出額たる飲食代金は右のような飲食のために原告が負担した費用であること、以上の事実が認められる。
また、<証拠略>によれば、当事者間に争いのない別表の<2>欄の飲食代金の支払先のうち、「鳥秀」「志な川」は焼鳥屋、「かつぱ」「いわき」「ノル」「姉妹」はスナツクないしカウンター構造のバー、「瓔子」は小料理屋、「千恵」はお茶漬、おにぎり等と酒を出す店、「フアースト」はステーキないし焼肉を専門とする店、「熊鉢」はすし屋、「ほり江」は料亭であり、「ほり江」以外は比較的小規模であるが、いずれも飲酒客を主たる対象とするものであること、「フアースト」は台東区上野にあるが、その他の店は原告の所在する新宿区十二社界隈にあることが認められる。
2 次に、係争支出額を構成する各支出の内容を検討するに、「かつぱ」「いわき」「ノル」「姉妹」における支出は、それらの店がスナツクないしバーであることからみて、飲酒代及びこれに付随するつまみ代等であることは明らかである。「瓔子」における支出は、<証拠略>の請求書の記載内容に照らし、飲酒が主体でこれに酒の肴としての食物が伴つた飲食代であると認められる。「フアースト」における支出は、<証拠略>及び前述の同店の性格や支払額等からして相当程度の酒を伴う比較的高価な食事代と認められる。「ほり江」における支出は、<証拠略>によつて明らかなとおり、芸妓をあげて高価な飲食をした代金である。「志な川」における支出のうち別表番号<略>の支出及び「熊鉢」における支出のうち別表の番号<略>の支出は、<証拠略>を総合すると、原告の社内で飲酒するために右店から取り寄せたつまみ代であると認められる。「志な川」及び「熊鉢」におけるその余の支出並びに「鳥秀」「千恵」における支出は、その内容を具体的に確認し得る証拠はないけれども、前述した右店の性格から特に夜間は飲酒客が多いと考えられることに照らし、いずれも飲酒代又はこれにつまみ代が加わつたものと推認するのが相当である。
そして、後記3の(一)に掲げる番号のうちで支出対象者数につき争いのないものについて一人当たりの飲食金額を計算すると、「熊鉢」では一〇〇〇円未満のものが三例(番号<略>の支出)あるが、他は二〇〇〇円台から三〇〇〇円台のものが圧倒的に多く、一万円を超えているものもある。
証人伊賀山正勝、同樋山恵介及び原告代表者は、右飲食は補食のための食物が中心で酒は付随的なものであつた旨供述するが、<証拠略>により飲食の内訳が判明するものをみると、食物とはいつても酒の肴のたぐいが多いと認められるので、右供述は採用できない。
3 また、右飲食をした支出対象者は左のとおりである。
(一) 別表の番号<略>の支出対象者が別表の<7>欄記載のとおりであるか又はこれとほぼ同一(人数又は氏名が一名違う程度)であることは当事者間に争いがない。そして、前掲甲第一四号証と弁論の全趣旨によると、右支出対象者はいずれも原告の社員、アルバイト又はこれらと原告代表者名内茂であることが明らかであり、その中でも名内、樋山、村島、川島等特定の者に偏つている。
(二) また、別表の番号<略>の支出対象者については、<証拠略>を総合すれば、その全部を具体的に特定することはできないものの、いずれも原告の社員、アルバイト又はこれらと原告代表者名内茂とが支出対象者であることを認めるに十分である(ただし、番号<略>には原告の社員のほかに原告の取引先である日本ラジエーターの社員吉沢も含まれている。)。
(三) 別表の番号<略>の支出対象者について、被告は原告代表者名内茂一人と主張しており、<証拠略>によれば、右主張のとおりであると認められる。また、番号<略>についても、右の証拠により、支出対象者は名内茂一人であると認めるべきである。
4 以上1ないし3の事実からすれば、係争支出額の性質は以下のとおりであると認められる。
(一) まず、係争支出額のうち右3の(一)及び(二)に掲げた番号の支出は、いずれも、原告の社員等又はこれと原告代表者名内茂が夜間に飲酒若しくはこれを主体とする飲食(社外からつまみを取り寄せて行つた飲食を含む。)をし又は相当程度の酒を伴う比較的高価な食事をするのに要した代金である。いずれの飲食も従業員全体で行われたものではなく、その都度一部の者が集つてしたものであり、しかも、特定の者に偏つている。これに飲食の頻度や社外において飲食した場所等を総合して考えれば、右飲食が、従業員全体の福利厚生のために行われる運動会、演芸会、旅行等と同じく従業員の慰安のため相当なものとして通常一般的とされる範囲内の行為であつたとは認めることができない。原告は、その作業の特殊性から従業員を慰労する必要性があつたことを強調し、証人伊賀山正勝及び同樋山恵介の各証言並びに原告代表者尋問の結果によれば、右飲食が従業員慰労の趣旨をも有していたことは否定できないところであるけれども、右に述べた飲食の諸事情からみれば、原告のいう作業の特殊性を勘案してもなお、もつぱら従業員の慰労のために行う行為としては社会的に相当とされる限度を超えているといわざるを得ない。係争事業年度当時原告が旅行会その他の福利厚生行事を行つたことがなかつたからといつて、右飲食をこれに代わるものとみることはできない。したがつて、前記二の説示に照らすと、右番号の支出は、措置法六二条四項(昭和四八年法律第一六号による改正前の措置法では六三条四項)括弧書の費用に該当するものではなく、いずれも交際費等に該当するものというべきである。
原告は、右飲食代金中の少なくとも料理類の代金は福利厚生費と認められるべきであるとも主張するが、酒の肴(飲酒のために取り寄せたつまみを含む。)の代金を通常の食事代と考えることはできないのみならず、支出の性格は一体として評価すべきであり、酒代と料理代とを区分することは相当でない。
(二) 次に、前記3の(三)に掲げた番号の支出は、原告代表者名内茂一人による飲食代金である。右飲食の趣旨につき、右名内茂は、自分自身の慰労のためであつたと供述するが、同人が酒好きであつたことや、飲食の回数、内容、場所等から考えると、特段の事情の窺われない本件においては、むしろ同人個人の私的遊興を主としたものと認める外ない。したがつて、右番号の支出は、福利厚生費でないのはもとより、交際費等でもなく、役員に対する臨時の経済的利益の供与として法人税法三五条の役員賞与に該当すると解するのが相当である。
四 右認定に基づき、係争三事業年度における原告の所得金額を算出すると、左のとおりである。
1 昭和四八年三月期
(一) 申告所得金額
申告所得金額が五五〇万九九九八円であることは当事者間に争いがない。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額の加算
申告交際費額が五二一万四八八一円であることは当事者間に争いがない。更に、当期の支出であることに争いのない別表の番号<略>の支払金額の合計八五万一九四〇円から、役員賞与と認められる番号<略>の飲食金額の合計一万二三七〇円を控除した八三万九五七〇円は、福利厚生費ではなく交際費等と認められる支出である。したがつて、交際費等の額は六〇五万四四五一円となる。右交際費等の額並びにいずれも成立に争いのない<証拠略>によつて認められる資本金額、資本積立金額、基準交際費額及び申告交際費額中の損金不算入額を基礎にして、昭和四八年法律第一六号による改正前の措置法六三条に基づいて計算すると、交際費等の損金算入限度超過額は、別紙計算書1のとおり、申告に係る損金不算入額の外に更に八三万九五七〇円あると認められ、この分を申告所得に加算すべきである。
(三) 役員賞与の加算
別表の番号<略>の飲食金額合計一万二三七〇円は確定申告に際しては福利厚生費として損金算入されたものであるが、右支出は、役員賞与であつて損金不算入とすべきものである(法人税法三五条一項)から、この分を申告所得に加算すべきである。
(四) そうすると、昭和四八年三月期の所得金額は右(一)ないし(三)を合算した六三六万一九三八円であると認められ、この金額を所得金額とする当期分の本件再更正処分に所得過大認定の違法はない。
2 昭和四九年三月期
(一) 申告所得金額
申告所得金額が四七八万六一一九円であることは当事者間に争いがない。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額の加算
申告交際費額が七五五万六八九五円であることは当事者間に争いがない。更に、当期の支出であることに争いのない別表の番号<略>の支払金額の合計一〇四万九〇四〇円から、役員賞与と認められる番号<略>の飲食金額の合計三万四八七〇円を控除した一〇一万四一七〇円は、福利厚生費ではなく交際費等と認められる支出である。したがつて、交際費等の額は八五七万一〇六五円となる。右交際費等の額並びに<証拠略>によつて認められる資本金額、資本積立金額、基準交際費額及び申告交際費額中の損金不算入額を基礎にして、昭和四九年法律第一七号による改正前の措置法六二条に基づいて計算すると、交際費等の損金算入限度超過額は、別紙計算書2のとおり、申告に係る損金不算入額の外に更に七九万三七八三円あると認められ、この分を申告所得に加算すべきである。
(三) 役員賞与の加算
別表の番号<略>の飲食金額の合計三万四八七〇円は確定申告に際しては福利厚生費として損金算入されたものであるが、右支出は、役員賞与であつて損金算入とすべきものであるから、この分を申告所得に加算すべきである。
(四) 未納事業税認容額の減算
昭和四八年三月期についての本件再更正処分により増額する所得金額八五万一九四〇円に対応する事業税相当額一〇万二一二〇円(昭和四九年法律第一九号による改正前の地方税法七二条の二二第一項二号、二〇条の四の二第一項。申告所得金額が既に三〇〇万円を超えているので税率は一二パーセントとなる。)を当期の損金として申告所得から減算すべきである。
(五) そうすると、昭和四九年三月期の所得金額は右(一)ないし(三)の合算額から右(四)を減算した五五一万二六五二円であると認められ、これを下回る五五〇万九四〇五円を所得金額とする当期分の本件再更正処分に所得過大認定の違法はない。
3 昭和五〇年三月期
(一) 申告所得金額
申告所得金額が三九六万八二九七円であることは当事者間に争いがない。
(二) 交際費等の損金算入限度超過額の加算
申告交際費額が五五六万三三三一円であることは当事者間に争いがない。更に、当期の支出であることに争いのない別表の<略>の支払金額の合計三三九万一〇五〇円から、役員賞与と認められる番号<略>の飲食金額の合計七〇万八七三〇円を控除した二六八万二三二〇円は、福利厚生費ではなく交際費等と認められる支出である。したがつて、交際費等の額は八二四万五六五一円となる。右交際費等の額並びに<証拠略>によつて認められる資本金額、資本積立金額、基準交際費額及び申告交際費額中の損金不算入額を基礎にして、昭和五〇年法律第一六号による改正前の措置法六二条に基づいて計算すると、交際費等の損金算入限度超過額は、別紙計算書3のとおり、二九二万五一七七円であると認められ、申告に係る損金不算入額が〇円であるから、右超過額の全額を申告所得に加算すべきである。
(三) 役員賞与の加算
右(二)において当期の役員賞与と認めるべきものとして掲げた番号の<6>欄の飲食金額の合計七〇万八七三〇円は確定申告に際しては福利厚生費として損金算入されたものであるから、この分を損金不算入とし申告所得に加算すべきである。
(四) 未納事業税認容額の減算
昭和四九年三月期の所得金額は前記2のとおり五五一万二六五二円であるが、事業税額は同期の法人税についての本件再更正処分における所得金額を基礎として決定されることとなつている(前記改正後の地方税法七二条の三九)ので、右再更正処分により増額する所得金額七二万三二八六円に対応する事業税相当額八万六七六〇円(税率は昭和四九年三月期分と同じ。)を当期の損金として申告所得から減算すべきである。
(五) そうすると、昭和五〇年三月期の所得金額は右(一)ないし(三)の合算額から右(四)を減算した七五一万五四四四円であると認められるから、当期分の本件再更正処分のうち所得金額が右七五一万五四四四円を超える部分(超過額六万六八七八円)は違法であつて取り消されるべきである。
五 次に、原告主張のその余の違法事由について判断する。
1 請求原因二2の違法事由(附記理由不備)について
本件通知書に本件再更正の理由として原告主張のとおり附記されていることは、当事者間に争いがない。これによれば、右附記理由においては、原告が福利厚生費として経理処理した支出の中から、交際費等に該当すると認めたものを支払年月日、支払先及び支払金額によつて具体的に特定して抽出し、それが一部の役員及び従業員の社外のバー及び小料理店における飲酒代であることから福利厚生費ではなく交際費等に該当すると判断したものであることが明らかにされている。
このように、本件再更正処分は、申告の基礎となつた具体的な支出の事実そのものを否定したものではなく、右支出があつたこと自体はこれを認めたうえで、その支出についての法的評価を異にし、右支出が福利厚生費ではなく交際費等に該当するとしたものである。したがつて、交際費等に該当するとされた支出か支払年月日、支払先及び支払金額によつて特定されている限り、各支出の原因となつた個々の飲酒日、飲酒内容、飲酒者等が逐一明示されなくても特定に欠けるところはないというべきであるし、それについての資料の摘示も、もとより必要ではない。また、当該支出が福利厚生費か交際費等かの法的評価は確かに難しい問題ではあるけれども、結局は総合判断によつて決定する外ない事柄である以上、前述のように、支出対象者が一部の役員及び従業員だけであること並びに支出内容が社外のバー等における飲酒代であることという処分庁の判断根拠の骨子が明らかにされていれば、処分庁の判断の慎重及び合理性を担保するとともに相手方に不服申立ての便宜を付与するという理由附記制度の目的に反することはない。したがつて、それ以上に原告の主張するような右一部の役員及び従業員の氏名とか飲酒の目的とかについての詳細や、更には交際費等に関する法律解釈についての処分庁の見解等が記載されていなくても、不備はないというべきである。
もつとも、昭和四八年三月期についての本件通知書(乙第二号証)の本文には、交際費等と認定すべき支出が「別紙の日付、摘要ならびに金額で示すとおり合計三三九万一〇五〇円あります。」と記載されながら、「別紙」には「計八五万一九四〇円」とあつて、両者に相違がみられることは当事者間に争いがない。しかし、右通知書の全体を通覧すると、「別紙」には支出の内訳明細が支出日ごとに記載されており、これを合計した「別紙」の金額が正しく本文の金額が誤記であることが容易に推測できるのみならず、右通知書とこれと同日付でなされた他の二事業年度についての本件通知書(乙第三、第四号証)とを対照すると、右本文中の三三九万一〇五〇円という金額は、昭和五〇年三月期において交際費等と認定すべき支出の金額と同一であつてこれを誤記したものであることが一層明らかとなるのであり、処分庁の真意が「別紙」の記載どおりであることは本件通知書を受領した通常人からみて明らかということができる。そうすると、昭和四八年三月期についての本件再更正処分の附記理由も原告主張のように意味不明なものではなく、理由不備はないというべきである。
以上により本件再更正処分に理由附記不備の違法はなく、原告の主張は採用できない。
2 請求原因二3の違法事由(法的安定性侵害)について
原告は、係争支出額と同性質の支出について従前からこれを福利厚生費として会計処理し、被告が右処理を是認してきた旨を主張する。そして、原告の従前の福利厚生費勘定中に係争支出額と同性質の支出があつたことは被告も認めるところであるが、右会計処理を正当なものとして被告が是認してきたと認めるに足りる証拠はない。したがつて、本件再更正処分において原告の係争事業年度における会計処理を否認したからといつて、これを非難されるいわれはなく、請求原因二3の主張は理由がない。
3 請求原因二4の違法事由(不正動機)について
原告は、本件処分の調査を担当した被告所部の係官が原告に対して金員を要求し、これを黙殺されたため、原告に対する意趣返しを目的として本件処分が行われたものであると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。したがつて、請求原因二4の主張も理由がない。
六 以上のとおり、本件請求は、昭和五〇年三月期についての本件再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち所得金額七五一万五四四四円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤繁 泉徳治 岡光民雄)
別表 <略>